佐伯泰英氏の著書「サイゴンの悪夢」を読み終えました。
今回、犯行の舞台は主に日本にあります。ベトナム戦争時代に、米兵「ハーディング少佐」に寵愛されていた、天使のような風貌を持つ「リトル・チャーリー」。彼は戦火のベトナムを脱出し、そのアメリカ人とアメリカで平和でリッチに暮らすことを夢見ていましたが、結局裏切られ、打ち捨てられます。戦乱の中を何とか逃げ切ってフランスに辿りついた彼は、暗殺者として暗躍するようになります。その活動を影でささえるスペイン系フランス人の「マヌカン」とスペイン舞踏団日本公演のスタッフの中に紛れ込み、来日。必要とあらば団員も次々に殺していきます。誰もが、舞踏団のプリマが殺されたとき、「何故?」と思いました。そして、その舞踏団の公演を日本で管理している人物と親しかったアンナ・ヨシムラ・スタインベルクが恋人で警察官の「クゲマロ」こと根本と共に追求していきます。リトル・チャーリーの最終標的が、別人に成りすましてアメリカで大成功を収めたハーディングだったことに私たちが気づかされるのは、途中からのことです。舞台はサイゴン、フランス、スペインを彷徨う少年と、その少年をもてあそんで捨てたアメリカ人との間で往来します。今回も史実をたくみに取り入れながらリアルな犯罪小説を作り上げた佐伯氏、お見事だったと思います。
佐伯氏の描く、どことなく漂う哀愁が私は好きです。リトル・チャーリーの生い立ちを考えれば、ハーディングに対する復讐心も理解できますし、それがどんな過酷な試練を乗り越えて成功間近になったのかを思い描くと、居ても立ってもいられなくなる。貧困にあえぎ、一日を生きて乗り越えられるかさえわからない日常、親も誰もいない土地で一から生活を構築していくこと、それがどんなに大変なことか、外国で暮らした経験のある私には少なからず理解できるところがあります。そういうところに共感できてしまうから、私は佐伯氏の本を読み続けるのでしょう。
ただ、私の中のベスト冒険サスペンス小説は、相変わらず笹本稜平氏の「極点飛行」なのです。いまだにアレ以上の大作を見つけていません。果たしてそんなすごい作品にめぐり合うのかどうかはわかりませんが、引き続き冒険サスペンスは読んでいきたいと思います。
次に私が読むつもりなのは、姉小路祐氏の「ダブル・トリック」です。久々にガッチリ日本国内の本を読むって感じです。出口の裁判官・岬剣一郎シリーズの2作目、今晩から読みますが、楽しみにしています。