薬丸岳氏の著書「友罪」を読破しました。
吉川英治文学新人賞というものを獲得したこの作品、確かに迫力がありました。物語の主人公は、冴えない若者の益田。彼はジャーナリズムに興味を抱き、プロのジャーナリストを目指していましたが、途中で挫折。その後住み込みで金属化工業の職場でひとまず働くことにしたのですが、そこで同期で入社してきたのが、鈴木という同じ年の青年。同期入社ということで二人とも親近感を持っていたのですが、益田は徐々に鈴木に隠された過去に気づいていきます。またそのほかにも、同僚社員で元AV女優の女性や、過去に事件を起こし、矯正のために鈴木の教育に携わった女性などがキャラの濃い、苦悩するキャラで登場します。益田と鈴木を取り巻く環境で様々な人が思い悩み、大きな決断をしなければならないのですが、それもこれも、全て鈴木が犯した罪による苦悩であるというのがなんとも痛ましいです。
鈴木は過去に小学生の男の子2名を虐殺した事件を起こしています。恐らくこれは、酒鬼薔薇聖斗事件をモチーフにした設定だったと思うのですが、彼の中で、「僕の罪は生涯許されないものなのか!?僕には普通に生活する権利が与えられないのだろうか!?」という葛藤が生まれているところが、凄くリアルでした。少年犯罪を犯す人、殺人を犯す人は少なからずいるわけで、彼ら全てが生涯許されない罪を背負っていかなくてはならないのか?という問いに対し、誰も答えは出せないでしょう。私なら・・・事件に関わりのない第三者なのだから、もう少し客観的な目で犯罪者を見たい、という願望もありますね。そもそも、何が罪で何が罪でないかは、曖昧なことが多い。それを断言口調でこうあるべきだ、と誰かが言うのなら、それには違和感を覚えると思いますね。
とにかく、単にサスペンスなのではなく、人間の苦悩がリアルに表現された、秀作だと思います。もっとも、私は人の苦悩を物語にするより、単に推理するだけの、事件の構造が複雑な警察小説のほうが好きなのですが・・・。
ということで、私が次に選んだのは、堂場瞬一氏の著書「複合捜査」です。ああ、私にはやっぱりこの手の警察小説が一番なんだな、とつくづく思います。まだ最初しか読んでいないのですが、犯人の動機が読めなかったり、犯人の意図するところが全く読めないような、不可解な事件が好きなんです。引き続き今晩も読みます。